皆さん、こんにちは!
串焼きホルモンが旨い居酒屋「東岡崎 明月」の藤原です!
皆さんはご存じでしょうか?
もう僕にしたって記憶の中のかなり奥の方で発見されたんですよ。
「ドリル鉛筆」
そう、とても懐かしくてほろ苦い。
あれは昭和五十年代ですよ。
僕は小学一年生で、下校時刻に友達と正門をくぐったところでした。
校門の石柱のすぐそばでシートを敷いて、ハンチング帽をかぶった男の人(今思えばコテコテの昭和の怪しい人)が小学校教材を売っていたんですよ。
「国語、算数、理科、社会。これで全部できるようになるから」
シートの上には参考書と問題集がぎっしり入ったケースと、見本の問題集が並べられていました。
今の僕ならそのおじさんにこう訊ねますよ。
「それでオジサン勉強できるようになった?」
でもそこは小学生。
「へ~」
僕の薄い反応におじさんはムキになりましたよ。参考書を広げて説明をはじめます。
「見てこの楽しい絵。解りやすく書いてあるし、面白いんだよ。おうちの人に買ってもらうといいよ」
「でも僕勉強しないよ」
「勉強した方がいいよ、これからは。これなら楽しいから。おうちのひと呼んどいでよ」
「いらないよ、それ。おうちの日とも呼ばない。じゃあね」
立ち去ろうとする僕に、おじさんはおもむろに取り出す。そう「ドリル鉛筆」!!!
「みてよ僕、これ! ドリル鉛筆!」
おじさんは僕の目の前でドリル鉛筆を楽しそうにグルグル回し始めます。鉛筆に刻まれたドリルのような溝が先に向かってまるで蛇のように動いて行きます。
「すげー! 何これ!」
「ロケットみたいだからロケット鉛筆って言うんだけど、今ならこれをおまけにつけちゃう!」
前のめりにロケット鉛筆に食らいつく僕に、おじさんはとうとう危険な技を付け加えます。グルグルと回していた鉛筆をその先の方に持ち替えて横にし、ゆらゆらと上下に揺らし始めます。まるで鉛筆画ゴムみたいにグネグネと曲がるみたいに見えてきます。
「ほらね、僕見てごらん。このロケット鉛筆はゴムみたいに曲げることも出来るんだよ」
「すげー! 欲しい!」
酔っ払たお父さんの手品みたいなものに、僕は完全に心を射抜かれてしまいました。
すぐに仕込み中の店(当時も我が家は居酒屋でした)に行き、親父におねだりします。でも僕も天才的な小学一年生だったので、ロケット鉛筆目当てでは買ってくれないことはちゃんと解っていました。
「お父さん、今学校の校門のところですごい楽しそうな勉強道具売ってるんだけど、買って! 勉強するから買って!」
うちの親父の素晴らしいところは、勉強だと言えば大抵買ってくれます。
忙しいとのことで僕に現金を渡し、1セット三万円もするその教材を即決購入してくれました。
家に帰って早速そのロケット鉛筆を取り出し、グルグル回したり、おじさんから伝授ししてもらった技でグネグネ曲げたり、至福の時間を過ごす僕。
結局参考書と問題集は一度も開かず、入っていたケースは面白そうだったので、落書きをしたり色々なものを詰め込んだり、頭にかぶったりしました。
ロケット鉛筆はたぶん一か月と持たずに興味が薄れ、どんな鉛筆でもぐにゃぐにゃに出来ることは翌日気が付きました。
春が来るたびに、みんな騙されてはいないかと気に掛かります。
でも僕はいまだに鉛筆をぐにゃぐにゃにして純粋な心を持つ子供たちを喜ばすことが出来ます。
三万円もする高価なロケット鉛筆を買ってくれた気前の良い父は他界しました。
素敵なおまけに騙されずに育った娘は中学生になりました。
昭和のほろ苦い思い出は、今もあの頃のまま校門のそばで歓声をあげています。
ってなわけで、ゴールデンウィーク後の今週もロケット並みに張り切っているわけですよーーーーーーーーーだ!
(o^-‘)bいぇい!